藤木金寿さん 極野地区 ねこつぐら名人
田舎百貨店の想い出
昭和62年3月、栄村で第1回田舎百貨店が開催された。
ねこつぐらや藁ぞうりなど、それはたくさん出品され、盛り上がった当時を振り返り藤木さんは微笑む。ねこつぐらは、その年に商品化された。ねこつぐらの作り手は、昭和60年代には約70名いたそうだ。藤木さんの作ったねこつぐらは、第4回田舎百貨店で「田舎大賞」を受賞した。村を盛り上げた田舎百貨店は、その後12~13年ほど続いた。
そして2013年現在、ねこつぐらの作り手は栄村全体で13人ほどになった。
栄村のねこつぐら
ねこつぐらの人気は高く、注文に生産が追いつかない。栄村のねこつぐらは冬の間 だけ、一つ一つ手作りされる一品物。ひとつ作るのに名人でも4~5日はかかり、一冬に20~25個ほど作るのが精一杯だ。
一年中作ればいいじゃないかと思 う人もあるかもしれない。確かに一年中ねこつぐらを作っている地域はあるようだ。
栄村のねこつぐらづくりは、村人の暮らし方そのものだ。それは栄村のねこつぐらだけがもつ魅力なのかもしれない。
夫婦二人三脚
育てた米を秋に収穫し、藁を干す。そして、その藁を使って冬場に編む。
編むのもたいへんだが、藁を作ることもたいへんな作業だということは意外と知られていない。
ひとつ作るのに直径5cmの藁の束が50~60必要で、その藁づくりは藤木家では奥様の役割。名人藤木さんのねこつぐらは、夫婦二人三脚で作られる。
藤木さんご夫婦も高齢となり、今年から米作りの規模を縮小されるそうだが、ねこつぐらは作り続けていく気持ちに変わりはない。
冬の居間は工房
雪に閉ざされる冬の間、藤木さんの家は藁だらけだそうだ。
居間にブルーシートを敷き、藁が乾燥しないような暖房機を背中に当てながら藁を編む。BGMには演歌が流れる。家中に藁の粉が舞い、トイレにまで藁が落ちているくらいですからと藤木さんは笑う。
猫、入るんですか?
実際、猫はねこつぐらに入るものなのだろうか。猫は藁の匂いが好きなようで、最初は警戒するが、入るのだそうだ。
ちなみに、藤木さんの家の居間にはあった小さいねこつぐらの中には、招き猫が入っていた。
次世代につなげる
年に一回「社長勉強会」と称してねこつぐらの作り手が集まり、技術継承と交流の場が開かれている。藤木さんは「ねこつぐら名人」として、いわば先生を務めている。
ねこつぐらづくりで難しいのは、一番には猫の出入口となる敷居部分の「ヌグアミ」という工程だそうだ。また、折り返して編む工程も難しいと。
安易に大量生産の道を選ばず、栄村の伝統工芸が守られ、継承される次の時代へとつながろうとする村の人の気持ちを大事にしたい。